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食品で中国進出を目指すに当たり、どの程度の予算を確保するべきかの判断は非常に難しい問題です。この記事では中小食品メーカーが、無理なく着実に成果を上げていくために必要な費用について考察します。
中国市場へ日本の中小食品メーカーが進出する際の形態はさまざまです。現地への拠点設立により言葉どおり進出をするだけでなく、製品を中国市場へ流通させることも含め、自社の方向性を検討する必要があります。
まずはそれぞれの形態について詳しく見ていきましょう。
外国からの資本により中国現地へ設立される法人は「外商投資企業」と呼ばれ、現在は2020年に実施された「中華人民共和国外商投資法」「中華人民共和国外商投資法実施条例」により管理されています。投資形態によりつ次の3種類に分けられています。
その名の通り現地に法人を設立します。外資100%の独資形態と、中国企業との合同出資である合弁形態が存在します。
いずれも中国の法律の下会社を運営していくわけですので、常に法改正や規制に影響されます。一時的に営業活動が制限されると、特定の日本製品の販売が極端に落ち込むということも起こり得ますので、
といった企業以外は慎重に決定する必要があります。
法人企業を設立するための準備やその判断のための市場調査を行う、もしくは現地での決済や営業活動は不要だが人員を置く必要がある場合に設立します。
2008年頃の中国進出ブームには、企業規模・業界を問わず多くの日本人駐在員事務所が設立されていましたが、多数の日本企業が中国から撤退した2024年の現在では、限定的になりつつあります。
外資を含む2者以上の出資により構成されるパートナーシップです。責任の負担や利益の配分を出資者同士の合意の下で決めることができます。日本企業が技術提供をし、中国の企業もしくは個人が出資をしてビジネスを展開するようなケースではこの投資形態を選択する場合があります。
1および3については最低数千万円以上、できれば億円以上の予算を確保しておくべきでしょう。食品で中国市場進出を目指す中小企業が実行するには、リスクも大きい方法となります。
中国市場で自社製品をブランディングするには相当の費用がかかります。媒体にもよりますが、日本で実施するのに比べて桁が異なることも珍しくありません。筆者も以前、クライアントは数百万円の広告宣伝費を予算として確保していると中国企業に伝えたところ、「その金額で何ができるんですか?」と鼻で笑われた経験があります。
T-MALLのようなプラットフォーム内、TikTok(抖音)を利用した動画配信、ライブコマースなど広告宣伝の方法は様々ですが、オンラインを利用した広告宣伝には最低でも数千万円の費用を見た方が良いでしょう。
現地の展示会へ出展するなどして、自社製品を販売してくれるパートナーをひたすら増やしていく地道な方法です。中小企業にとっては最も取り組みやすい方法ですので、こちらについては後ほど詳しく解説します。
中国企業が自社ブランドを展開する際、日本の食品メーカーである貴社へOEM生産の委託についての商談を希望してくる場合があります。契約内容にもよりますが、一般的には委託元が自社ブランド製品として販売するための広告宣伝費をすべて負担し、成果が得られた場合は想定以上の注文がくるようになるため、貴社にとって最も効率の良い中国進出方法と言えます。
ただし、次のようなリスクもあることに留意してください。
数年で契約が終了するケースが多い
中国人にとって、日本の食品は安全なだけでなく味も良いということで、一定の層には非常に人気があります。市場販売価格も当然中国産に比べ高くなります。そのため高級品としてブランディングをしていくのにも最適です。
実はここに委託元のメリットがあります。彼らのほとんどは商品をリピート購入する顧客を増やす過程で、次のステップである「仕入コストの低減」に取り組んでいます。仕入れ価格が下がれば、市場販売価格が同じままなら利益が大きくなるのは当然であり、それを実現するために主につぎの3つの方法に取り組みます。
A 貴社からの卸価格を下げる
B 貴社と委託元の中国企業が合同で中国に工場を立ち上げる
C 中国で新しく生産委託工場を探す
先述の①-3、パートナーシップ企業の設立はこのような場合にも検討できますが、
など、デメリットも多く存在するため、断る日本企業が大半でしょう。とは言え年々原材料費も人件費も上がっていく中、卸価格を下げると言っても限界があるでしょう。
こうして双方の意見が折り合わず、多くの場合はCに落ち着きます。OEM生産契約は最初の契約期間である3~5年程度で終了し、中国市場への進出は仕切り直しとなってしまいます。
中国市場への進出にかける初期の金額が1000万円未満の場合、BtoCのマーケティングにより成果を得ることは予算的に厳しいと言わざるを得ません。そのため「中国の販売パートナーを獲得する」という地道な活動が重要になります。
この取り組みにより一定の成果を得るために最低限に必要な予算について、具体的な金額と共に見ていきましょう。
食品で中国市場進出を目指すに当たり、つぎの項目を担当できる人材が貴社のチーム内にいるかを確認してください。
いない場合は必ず外部の専門家のサポートを受けるようにしましょう。なお、費用感については契約形態によってもかなりの差があります。
顧問契約
依頼する内容の範囲や専門性、業務量、実費を含めるかなどにもよって金額はかなり変動しますが、実費を除いた報酬としての一般的な目安の金額となります。
月額は10万~50万円
スポットコンサル
コンサルタントとのマッチングサービスなどで専門家を紹介してもらい、作業時間分の報酬を支払います。相談・依頼内容やコンサルタントの経験によって金額が大きく変動します。
時間:5,000円~20万円
成果報酬
一定の実績や、販売金額などによりコミッション率を設定し、出来高により報酬を支払います。固定費がかからないメリットがありますが、役務の提供が義務となるような契約を結ばないと、コンサルタントが優先的に動いてくれないというリスクもあります。
食品の場合はINVOICE価格の3~10%程度
現地の展示会へ出展する
中国での日本製食品に対するイメージの良さを考えた場合、実際に試食・試飲を行いながら商談を行うことのできる現地展示会への出展は必須と言えます。金額は上海の主要な食品展示会を参考にしており、会期は一般的に3~4日です。
ブース費用:30万~40万円(+備品レンタル)
通訳費用:2万円/日(2名~)
出張費用:20万円/名(航空券、ホテル代、現地交通費、滞在費など)
資料作成費用:7万円~(配布資料A4サイズ 300枚程度、現地制作、翻訳料含む)
テスト輸出を行う
展示会当日までに、できる限り実際に少量で輸出入を行うのが理想的です。ブースで在庫を気にせず豪快に試食・試飲を実施できるだけでなく、商談先へサンプル提供やテスト販売にも対応することで機会ロスの低減につながります。
輸出入経費:35万円程度
中国市場進出への取り組みに限りませんが、初期の段階で費用をかけすぎてしまうと、すでに支払ったコストに気をとられ、客観的な判断ができなくなる恐れがあります(いわゆる「サンクコスト(コンコルド)効果」)。とは言え費用を出し渋りすぎても正しい成果が得られません。
筆者がおすすめするのは、「とりあえず一度」「ただし本気で」現地の展示会へ出展することです。成果が出れば御の字、期待した成果が得られなかった場合はその時点で真剣に次の一手を検討します。その上で成功のイメージを描くことができなければストップすることも必要でしょう。
以下、着手金+成果報酬型のコンサル契約をして展示会へ出展した場合の例となりますので、参考にしてください。
上海の某食品展示会へ出展
ブース費用:300,000円 (会期4日間)
備品等:70,000円(ブースで使用する冷蔵庫、試食用消耗品等)
通訳:180,000円(準備1名、会期4日×2名)
担当者出張費:200,000円(6泊7日)
販促資料作成:80,000円(A4カラー資料、翻訳費込
テスト輸出入:340,000円
コンサル費用:300,000円(着手金)、200,000円(展示会同行出張費)
合計:167万円
(備考)
コンサルタントによりサービスの提供価格・内容、貴社の目指すところによりこの限りではありませんが、中小の食品工場においては150万~200万円の予算で、一定の成果や結論を得ることを目指していくのがひとつの目安ではないでしょうか。
中国の市場は巨大なだけでなく、変化のスピードが非常に速いため、「地道に」「着実に」進めることには賛否があることでしょう。しかしながらスピードに追い付くためには支出が伴う上、成果が保証されているわけではありません。
重複となりますが、まずは無理のない範囲で、しかしながら一度は真剣にチャレンジすることをおすすめします。
この記事を書いた人
本炭 康典上海で自社ブランドの納豆を200店舗以上へ卸販売した経験を活かし、日本製の食品を中国へ輸出および消費者市場に向けた販路拡大のサポートをしています。