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昨今、さまざまな社会情勢により食品工場の建設費は高騰が続いています。
工場建設依頼のシーンでよくあるのが、
「今の工場を30年前に建てた時は、こんな高額じゃなかったのですが...」という相談です。
食品メーカーにとって工場建設は一世一代の出来事。
前回の工場建設は先代がおこなった という方も多いのではないでしょうか。
もちろん、30年前に建設したときよりも費用が上がっているのは”正当な理由”によるものです。
この記事では、まずなぜ工場の建設費が高くなってしまうのか?その原因についてお伝えします。
あらゆる業種において、現在工場建設の高騰化が起こっています。
国土交通省の「建設工事デフレーター」によると、建設費用は、ここ数年だけでも1.2倍近くに膨らんでおり、食品工場でも同じです。
さらに食品メーカーにおいては、工場建設は頻繁におこなうことではありません。
20〜30年に1度の建設になってくるかと思いますが、
当時の建設費から比べると、およそ1.5〜1.7倍にまで膨れ上がっているケースがほとんどです。
まずはどのような背景で費用が高騰してしまうのか?
その理由についてお伝えしていきます。
まず挙げられるのが社会情勢による高騰化です。
建設費用が大きくあがった年として、直近は2011年、2019年、2020年、2021年が挙げられます。これは単純に東日本大震災の復興、コロナ禍、ウッドショック、ウクライナ戦争による原材料の高騰が影響しています。時代に合わせて右肩上がりになっており、今後も増加を続けていくと予想されています。
昔と違って大きなお金がかかるようになったきっかけの1つとして「法の改正」があります。
昨今、さまざまな法が整備され、それに伴いしっかりした設備を作るために費用の高騰化が起こっています。
特に「姉歯事件」に代表される構造計画書の偽造への対策として、「建築基準法」の厳格化が一番の大きなインパクトを与えました。
工場を建設する場合、どのような設計で建築をおこなうのかについて
役所への申請が必要になります。これを確認申請といいます。
驚くべきことに一昔前までは、この確認申請がすべての会社でおこなわれておりませんでした。
そのため、言い方は悪いですが、法で定められた設計から逸脱した設計が許容されていたのです。
本来用いるものよりも安価な素材、低品質な素材を使用することで大幅にコストを抑えた工場建設がまかり通っていました。
しかしながら、現代ではこのようなことは許されません。
建築基準法が整備されたことによって、銀行で建設の融資を受けるためにもこの「確認申請」が必須となり、ほぼすべての建設業者が役所へ申請をおこなっています。
しっかりとした素材で作るためにも、それ相応のお金が必要になり、過去よりも必然的に高騰が起こってしまいます。
さらに、「阪神大震災」や「東日本大震災」によっても建築にかかる費用は大きく変化しました。
耐震設備のために、細い資材が使えなくなり、液状化などへの対策として、地質調査が必要になり、頑丈な工場の基礎が求められるようになりました。
例えば今の車は、さまざまな安全装置がついていると思います。昔の車とは、元々のベースのスペックが異なりますよね。工場もこれと同じで、元々備えるべきスペックが昔と異なっているので、かかるコストがそもそも増えているのです。
続いて、消防法も関与します。
20-30年前までは建築の申請をしても、消防法への準拠は必要ではありませんでした。
でも今は必ず消防法に基づいた設計が必要で、役所の同意も必要になります。
消火栓の設置をすれば800万円、スプリンクラーを導入すれば1000万円。
そのほか、火災報知器、防火シャッター、延焼防止の装置など、法の追加によって費用が上がらざるを得ない状況です。
続いて食品衛生への配慮も建設費用の高騰に繋がる大きな要因です。
ネット通販の一般化による商圏の拡大、数々の食中毒問題などにより、
大きく時代が変化したことが挙げられます。
食品業界で言えば、一昔前だと屋内ガレージに工場があるケースもありました。
しかしながら現代では、HACCPへの対応、水が流れる側溝の整備、異物が流れない排水設計、温度管理の厳格化、部屋空気のフィルター設置など、
建設に際してさまざまな衛生管理への配慮が必要になります。
冷凍食品において言えば、-20℃のまま他県へ持っていくことは、これまでできませんでしたが、コールドチェーンの発達により、商圏が拡大したため、
より長時間の冷凍商品の担保が必要になりました。
特にサバのような食品は、常温で加工すればするほど、食中毒の原因物質が増えてしまいます。なので、加工をおこなう室温の空調も管理する必要が出てきます。
菌の繁殖を防ぐために、殺菌用の設備を用意したり、遠方への配送しても
菌が増えない加工の仕組みを導入したり、
食中毒の原因が菌の繁殖にあることが公に知れ渡ったため、
それに伴って衛生管理もおこなう必要性が強くなってきたことも挙げられます。
ここまでに挙げてきた工場建築が高騰化した原因は、どれも現代では免れることのできない要件です。
今現在、大手コンビニエンスストアや、大手量販店は食品工場の建築コンプライアンスについて確認をし
取引するかどうかを決めているケースもあります。
つまり、今はコンプライアンスをしっかりしておかないとビジネスが立ちおこなかない時代です。
ですので、これらの必要最低限のコストは必ず削減しないように設計する必要があるでしょう。
ただ、そんな中でも費用を抑えて工場を建てることは可能です。
例えば工場建設で使える
最大5億円もらえる「HACCPハード事業補助金」は、
工場建設費用の半額補助がされます。
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/gfp/haccp.html
高額な工場建設費を賄うことができるので、コストを抑えるためには補助金の活用を検討されることがベストでしょう。
この記事を書いた人
林 和矢16歳から建設業一筋、食に関する業態はお任せください。
御社の設計工事部としての役割の中で限りある資源をバランスよく調和させた工場の計画を行います。