column
「人口減少が進む日本市場だけでは生き残りが難しい」
「海外進出したいけれど、どの国に進出すべきか?」
海外進出先を様々なデータに基づいて比較するものの、実際問題、どの国の市場を選択すべきか判断が難しく、お困りではないでしょうか?
海外市場を開拓する上で、進出後の泥臭い取り組みも重要ですが、それ以上に、「どの国に進出するか」という市場の選択が成否を大きく左右します。
そこで本記事では、ベトナムでの事業歴10年、日本企業の海外進出支援事業を営む筆者が、市場選択の意思決定で重要な比較軸や、ベトナム市場の可能性を包み隠さずお伝えします。
ご参考までに、筆者がなぜベトナムを選んだか?をお伝えします。
起業を本格的に検討し始めた当初から、ビジネスを成功させる上では、「どこでビジネスをするか?」が重要だと考えていたため、どの市場を選ぶかを様々な観点で検討していました。
まず、日本などの先進国は選択肢から外しました。市場が飽和していることや、物価が高いこともありますし、今後成長していく市場でビジネスをしたいと考えていたからです。
成長が期待される海外市場の中で、どの国でビジネスをするか?は、難しい選択です。
筆者は、その中で、今後10年で(2013年の起業時点)急速な経済成長が見込まれていた「東南アジア」に絞りました。アフリカなどの発展途上国も、経済成長が見込まれていますが、市場が未成熟であり、数十年という長期スパンでの成長であると考えていたからです。
次に、東南アジアでどの国にするかについて、数ヶ月間アジア各国を周遊しながら、考えました。
その結果、最終的にベトナムを選んだのは、以下の理由からです。
▼筆者がベトナムを選んだ理由
このような理由もあって、「ベトナムであれば経済成長の波に乗ってビジネスができそうだな」というイメージが沸き、ベトナムを選びました。
筆者自身の経験からも、海外進出先の選択においては、以下の3つの比較軸が重要です。
▼海外進出先の選択で重要な比較軸3つ
それぞれについて、なぜ重要なのか?具体的に解説していきます。
海外進出先を選ぶ上では、どの国であれば、投資コストを抑えられるか?という観点が非常に重要です。
ビジネスに限らないですが、何事においても、最初から成功することは難しいため、いかに試行錯誤ができるか、どれだけ打席に立ち続けるかが成功の鍵を握っています。
特に、国民性も文化も異なる海外ビジネスでは、不確実性が高いため、より一層この観点を意識する必要があります。
そして、長い期間試行錯誤するためには、限られた資金で何ヶ月事業が継続できるか、すなわち投資コストをいかに抑えられるかが非常に重要になってくるのです。
物価や、不動産価格、法人税など、事業の初期投資やランニングコストを精査して、どの国であれば投資コストを抑えられるかを比較しましょう。
どの程度経済が成長しているか、どの程度市場が成熟しているかも重要な比較軸で、これは、どのような商品・サービスを提供するかによって異なります。
例えば、富裕層向けの商品を海外に展開したいのであれば、富裕層の人口の割合が少ないミャンマーよりも、富裕層が増えてきているベトナムの方が可能性が高いでしょう。
一方で、一般消費者向けの生活用品を展開するのであれば、競合が増えている成熟市場よりも、競合が少ない後発の発展途上国の方がマーケットのポテンシャルは大きいかもしれません。
このように、自社が展開する商品・サービスの場合、どの程度経済成長している国、どの程度市場が成熟している国がベストか?を検討していきましょう。
国民性も非常に重要です。
例えば、同じ東南アジアであっても、国によって国民の信仰心は様々ですし、価値観、食の嗜好は大きく異なります。
さらには、同じ国の中でも、地域によって住民性も異なります。
自社が展開する商品・サービスはどのような価値観・嗜好・ニーズをもつユーザーに刺さるかを言語化した上で、どのような国民性の地域に刺さる可能性が高いかを検証していきましょう。
2章でお伝えした判断軸で比較し、進出先を決めていく上では、必ず現地を訪問して一次情報を収集してください。
多くのリサーチ会社やコンサル会社が提供する定量のデータも非常に重要ですが、それだけに頼るのは非常に危険です。
定量データは、同じデータでも、なぜそうなのか?という要因分析によっては、どのような方向性の示唆にも導くことができるからです。
例えば、競合他社が増えているというデータを1つとっても、「競合が増えているからチャンスだ」と捉えるのか、「成功する可能性は低い」と捉えるのか、状況によってはどちらの方向でも解釈できます。
このように、定量データを踏まえて示唆を導くのは、なぜそうなっているのか?定性データをもとに深ぼっていくことが重要であるのです。
海外進出先という重要な意思決定をする上では、一次情報の収集と定量データのリサーチを両輪で進めることが欠かせないのです。
海外進出先として、ベトナムは”熱い”のでしょうか?
たしかに、ベトナムは、名目GDPは約4,060億ドル、経済成長率は8.02%(2022年)と高い水準で成長しており、直近10年間で富裕・ミドルアッパー層の割合が2倍以上増加するなど、市場のポテンシャルが非常に大きいです。
また、ベトナム人の日本製品への信頼性や日本食・日本文化への関心も高いです。
この事実だけをみると、「とりあえずベトナムに進出すれば売れるのではないか?」と考えてしまいがちですが、本当にそうなのか?冷静に見極めなければなりません。
ベトナムの経済成長は著しく、ポテンシャルが大きいのは事実ですが、規模としては日本の地方都市程度の経済規模です。
また、日本製品への関心が高いと言っても、実際に自社の製品を購入するかどうかとは全く別次元の話です。
闇雲に、ベトナムのポテンシャルが高いからベトナムを選ぶのではなく、
産業・経済構造を定量的に把握するだけでなく、国民の価値観や、趣味嗜好、地域性やトレンドなどの定性情報を現地で収集した上で、海外進出先を比較しましょう。
そして、「日本で売れたものを海外で展開しても売れない」という前提をもった上で、日本で展開しているビジネスと同じように、ターゲット・提供価値を精緻に定義した上で、自社にとってベストな海外進出先を判断しましょう。
本記事では、海外進出をする上で、進出先の国をどのような比較軸で選ぶべきか?について解説した上で、ベトナム市場は本当に熱いのか?についてもお伝えしました。
ぜひ、この記事を参考にしていただきながら、海外進出先を議論していただければと思います。
この記事を書いた人
荒島 由也スター・コンサルティング・ジャパン代表、STAR KITCHEN創業者。ベトナムで料理教室、洋菓子製造・販売事業も展開。ホーチミン高島屋に店舗を持つ他、 スターバックス、セブンイレブンなどを取引先に持つ。