column
以前、知り合いの方からこのようなご相談がありました。
「何か新規事業を考えている。その中で飲食店もその候補の一つなので、いろいろとアドバイスが欲しい」
その方は、今まで飲食業界の経験はゼロで、ずっとBtoB(企業と企業の取引)の異業種で活躍されていました。
こういった質問は仕事柄たびたびいただきます。 そこで私は決まってこう返答します。
「飲食店を経営するのはいいですよ!是非やってみて下さい」。
無責任な発言のように思われてしまいがちですが、実際にはそう思っています。
特にBtoB企業を経営されている方にはより強くおすすめしています。
私自身もBtoB起業をやっている中、飲食店をやり始めたので、自分自身の成功体験と重ねながらそのような返答をしていますが、では特にどのような業種から飲食業界に参入するのがいいのか。
それは食品メーカーであると思っています。
ではなぜ食品メーカーなのか?
以下、理由を説明させていただきます。
最初に結論を申し上げます。
食品メーカーが飲食店をすると
以上、順を追って説明します。
まず非常に基本的なことではありますが、食品メーカーとしての立ち位置を明確にします。
原料メーカー(生産者) → 食品メーカー → 卸売(商社) → 小売 → 消費者
というのが一般的な商流となり、食品メーカーの立ち位置が明確になったところで一つの大きな課題が生じます。
それは、消費者のニーズを直接知ることができない立ち位置だということです。
もちろん大企業なんかは消費者と直接接点を持つ行動をしていますが、中小規模のメーカーだと組織的に難しいことが多くあります(特に地方だと非常に多い)。このような立ち位置で事業を進めていくと、消費者が今何を求めているのかというニーズの解像度が非常に粗いものとなってしまい、売れない商品を量産してしまうリスクが大きくなってしまいます。
ではここで飲食店をやった場合を考えてみましょう。
原料メーカー(生産者) → 食品メーカー → 飲食店 → 消費者
もちろん自社で生産した商品を飲食店を通して全て消費することはできないでしょう。ただここで非常に重要なことは、消費者と直接接点を持つことができるという点です。
マーケティングの観点から、例えば冷凍餃子を生産している食品メーカーだと、どのような餃子がどういった年齢層等に売れるのかを、この飲食店を通じて知ることができます。ひと昔前に流行ったニンニクが入っていない餃子(今では主流でもある)がありますが、今だとニンニクがたっぷり入った餃子も非常に人気です。これ実はある飲食店でこういった餃子が人気となったため、一気に普及しました。このような事例から考えると、飲食店をマーケティングの場として活用し、売れる商品、今売れている商品、これから売れそうな商品を参考に、食品メーカーとして今後どのような商品をどのように売っていくかが非常に明確となっていきます。
またブランディングの観点からも、この飲食店の役割は大きいものとなります。
先の例で挙げた冷凍餃子ですが、例えば王将の冷凍餃子か、よくわからないメーカーの冷凍餃子だったら消費者はどちらを買うと思いますか?答えは王将の冷凍餃子の方が売れると思います。その理由は、王将が既に有名だというのもありますが、買う人の多くは王将の店舗で餃子を食べたことがある人で、その経験が商品に信頼を与えているためです。消費者は知らず知らずの間に、接触機会が多いものに好感や関心が高まります。その機会を作ってもらう意味としての飲食店の役割は大きいものとなっていきます。
では飲食店をするにあたって、必ず考えないといけないことはなんだと思いますか?
答えは簡単で、利益が出ているかどうかです。当然利益が出ていなければそもそも飲食店をする必要があるかどうかが議論となり、損失が大きければ撤退しなければなりません。
もちろん食品メーカーも自身が展開する飲食店で損失が発生していれば、撤退を考える必要がありますが、飲食店だけを経営している会社と比較して、利益を出しやすい特性があったり、そもそも飲食店だけの利益を見ることが妥当でなかったりします。
まず、食品メーカーが展開する飲食店は原料の購買力が強い場合があります。
ここでいう原料とは飲食店からみた原料のことです。
飲食店を運営していくにあたり、必ずメニューを作るためにその素となる原料が必要となります。一般的な飲食店ですと、卸から購入しますが、当該原料には食品メーカーと卸の利益がのった価格で購入することとなります。
ここで、食品メーカーが展開する飲食店の場合を考えてみます。
全てではないですが、原料は自身の食品メーカーから購入した場合、飲食店の利益はもちろんですが、食品メーカーとしての利益も獲得することができます。飲食店にとって主原料となればなるほど、飲食店を含めてその利益が大きくなります。多店舗展開を考えている場合には、当該利益はより大きなものとなります。
少し話が逸れてしまいますが、食品メーカーが飲食店を展開する場合は、必ず多店舗展開を視野に入れた戦略を明確にすることを強くお勧めします。その理由は、食品メーカーとしての事業の両立(飲食店とのシナジー)を考えると、原料の活用という点からも専業ではない飲食店運営という点からも、多店舗展開向けの運営形態・組織となるためです。
また食品メーカーだと、原料の調達価格を比較的優位に購入できる環境下にいる場合があります。
例えば、食品メーカーの工場で食肉を加工していたとします。当該食肉を飲食店でも使用する場合、仕入れを共同ですることで規模が働き、他の飲食店より優位な価格で調達できたりもしますし、その他の原料についても同様のことがいえます。
つまり、食品メーカーはその立場を利用することで、飲食店にとって非常に大きな仕入コストを低減することが可能となります。
そして次に、先で述べたように、飲食店を通してのマーケティング・ブランディングの結果、食品メーカーとして利益が上がる場合が考えられます。この場合、極端な話ですが、飲食店の方で利益が出ていなくても、その活用により食品メーカーの利益が増大し、その合計で利益が出ている場合は、結果として飲食店の損失部分はマーケティング費用として考えることができます。
つまり飲食店を展開した場合には、それぞれ単一の事業体として見るだけでなく、それらを一体として評価する視点が必要になります。
なお、投資を含めた飲食店の損失額は、規模をコントロールした上で考えると、そこまで大きくなることはないため、食品メーカーとしての軸をしっかり持っておけば、利益をしっかり狙える可能性は大いにあります。
ここでは経験談を含めた少し感情的な話になります。
食品メーカーが飲食店を始める。
もっと抽象的に言うと、会社が新しい事業として異業種に参入する。
これだけ聞くと何かリスクの高いことのように感じて仕方がないとする見方もできます。
そして、非常に労力のいることのように感じます。
私自身も飲食業界には、異業種からの参入です。
そのため、この決断に至る過程の中では、少し懐疑的な自分も確かにいました。
ただ結論を申し上げると、飲食業界に参入してよかったと思います(まだまだ発展途上でどうなるかもわかりませんが)。
その理由は、BtoB企業を運営していた私が飲食店を展開し消費者と直接接点をもつ機会を得たことで、もともとの事業とのシナジーを強く感じた点にあります。自分の会社が展開している事業の末端に消費者が存在している場合は、必ず消費者目線というものが必要となってきます。言われなくてもわかってはいるよと言われてしまいそうが、消費者との距離が遠くなればなるほど、その意識は必ず希薄になります。それは飲食店を展開し、消費者と直接接点を持ったからこそ、より強く感じます。
また、消費者と直接接点をもつと、世の中の流れに対して非常に敏感になります。これは事業に対して直接的・間接的に非常に役立つ結果になります。
全ての事業は、消費者がいることで成り立っています。
少し総論的になってしまいましたが、だからと言って全ての業種が飲食業界に参入すべきだとは全く思っていません。その他にも消費者と直接接点をもつことのできる業種はたくさんあります。
ただ、先で述べたように食品メーカーと飲食業界は非常に相性の良い業種だと思います。
次回は、食品メーカーが実際に飲食店を展開するためにはどうすればいいか、についてお話ししたいと思います。
この記事を書いた人
和家 潔2007年公認会計士試験合格
2019年合同会社WEDGE WORKSを創業
2021年ラーメン店「肉と麺と」を大阪の京橋にオープンし、今現在繁盛店へ。
会計士からの視点で、飲食店経営、店舗経営コンサルティングを展開。