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日本の食品を中国市場に販売していくためには、中国の販売パートナーの考え方や商習慣を理解する必要があります。今後の商談機会を日本式のやり方にこだわり過ぎて逸することのないよう、成功のためのポイントを学びましょう。
日本の食品を中国市場に販売するには、クリアするべき課題がいくつかあります。大きく4つ、優先順位はつぎの通りです。
中国人消費者の好みや傾向を分析することも大切ですが、貴社の製品を貴社に代わって中国市場で販売するパートナーの考え方や商習慣を理解することは、それ以上に重要と言えます。
この記事では日本式ビジネスに固執することなく、柔軟に中国の販売パートナーとの関係を築いていくために理解しておきたいポイントを紹介します。
我々日本人は中国人の習慣や考え方がよく理解できませんが、もしかすると中国人も同じ気持ちなのではないでしょうか?文化や歴史といった背景が異なりますので当然ではありますが、両者がすれ違う瞬間はビジネスを進めていく過程においても散見されます。
日本から中国の展示会へ初めて出展すると、名刺を持っている来場者がほとんどいないことに驚くはずです。むしろ名刺を持っている方がレアなケースでしょう。これはビジネスを進めるに当たり最も使用頻度が高いのがWeChatであり、名刺がほしければあとでWeChatを利用し画像を送れば済むと考えているためです(ここではWeChatの説明は割愛します。よくわからないという方はネットで検索してください)。
彼らと取引をしたいのであれば、WeChatで連絡先を交換することが必須です。そして商談が進んでいくとグループ(LINEのグループと同様のスペース)が作成され、面識のない中国人が次々と登場していきます。新規の参加者には日本語の話せない方も多く、慣れるまでは中国語で囲み取材でも受けているような気分になりますが、中国とビジネスを行うのであれば当たり前の光景です。そしてこれらのやり取りは、企業が従業員へ業務のために支給したものではなく、個人のアカウントで行われます。
日本の会社では取引関係となる可能性のある客先の、かつ個人アカウントとSNSでつながることを禁止している場合もありますが、それを理由にEメールのみで連絡を打診しても、受け入れる中国人は皆無でしょう。WeChatを利用した業務上のやり取りは、中国市場へ進出する過程において避けては通れないものです。
なぜWeChatが多用されるのでしょうか?それは彼らがWeChatを利用してのビジネスを「効率が良い」と考えているからです。しかしながら、我々日本人にとってはやりにくいと感じる瞬間も少なくありません。
実際、彼らにとっての効率と我々にとっての効率には相違があります。
日:メールで必要な事項を記載の上ファイルを添付で送った方が認識のずれがない
中:グループの履歴を遡ればすべての情報があるのは便利
日:時間がかかっても正確に情報を伝えた方が結局は早い
中:ビジネスは時短で進めたい
日:なぜもっと慎重に仕事が進められないのか?
中:なぜもっとスピーディーに仕事が進められないのか?
これは、常に100%に近づけてから次のステップへと進む日本式に対し、60%でいいからどんどん次へ進む、問題が起きたらその都度考えるという中国式の進め方により頻繁に起こるすれ違いです。中国市場の変化するスピードがそれだけ速いことの証左であるとも言えます。
どちらのやり方にも良い面と悪い面があり、優劣を比較することに意味はありません。大事なのは押し付けすぎることなく、妥協しすぎることなく、スピードと結果の両方を出していくことです。
WeChatはPC版も提供されていますし、スマートフォン版と同時に開けば、スマートフォン上で受信したファイルを転送する機能もあります。WEB検索をすればビジネスの上で便利な利用方法のいろいろな記事がヒットしますので、参考にしてください。
アプリを利用すれば、通話料も国際電話に比べ圧倒的に節約できますし、中国人とのビジネスでWeChatをフルに活用しない手はありません。
既に周知の事実ではありますが、中国大陸ではGoogleのサービスは利用ができません(2024年2月時点)。Googleスプレッドシートが使えないというのは、海をまたいでのプロジェクトを進行させるにおいて非常に不便なものがあります。
とは言え同様のオンラインドキュメント編集アプリが一切利用できないわけではありません。中国には、ソフトウェア大手「キングソフト(金山軟件、Kingsoft)」の子会社「金山弁公軟件(Kingsoft Office Software)」が提供している、「金山文档」という同様のサービスがあり、新型コロナウイルス感染拡大に伴うテレワークの増加から急激に利用する企業が増えました。
しかしながら機能の表示はすべて中国語となりますので、日本人には使いづらいのも事実です。ログインも必要なので、セキュリティの面で会社のPCでは使用できないという方もいるでしょう。手間はかかりますが、エクセルを何度もバージョンを変えて更新するというのが一番簡単な方法のようです。
中国市場の消費力は、その圧倒的な人口ゆえに日本市場とは比較にならないほど巨大であり、うまくいったときのリターンは非常に大きいですが、同時にその座を巡っての競争もし烈であると言えます。
中国での知名度があり、販売単価も高いブランドの商品であれば、売り手は数を販売することで利益を出そうとし、消費者は同じものであれば1元でも安くかつ信頼のできそうな販売者から購入しようとします。日本製の化粧品の転売がブームであった頃には、粗利1~2%でも参入する中国の転売屋が数多く存在していました。
ところが加工食品の場合はそこまで単価が高くありませんので、1%の利益で商売を行うわけにはいきません。そこで利益を大きくするため、つぎのような方法に取り組みます。
中国市場における日本産食品のイメージは、相対的には以下のようなものでしょう。
・味が良い
・安心
・高級
そのため、「高くても売れる」という考えをベースに中国市場への進出を試みる方も少なくありませんが、商談相手である中国人も同じとは限りません。リーズナブルさでよく売れている中国製の他社商品と価格勝負にならないと、貴社は見積価格を下げるべきだと熱弁をふるう方もいるでしょう。
既出のブランド化粧品同様に、中国市場では「利益率より販売数量で利益額を稼ぐ」という考え方が根強いです。これだけの人口を有していますので、市場も実際にそういう側面を持っています。極端な値下げ要求に応じる必要はありませんが、日本市場と全く同じ利益率で商談が成立するとは限らないことを理解しておきましょう。
一方、貴社からの見積価格が多少下がったとしても、輸出入通関に係る費用、関税、増値税などが仕入原価に加算されていき、中国市場での販売価格は中国産の他社製品に比べ相当に割高となります。そのため、中国の販売者は自社ブランドを展開し、広告宣伝費を投下してその価値を高めることで、販売価格の高い高級品としてのポジションを確立するという選択をすることがあります。
この場合貴社はOEM委託生産の相談を受けるわけですが、自社ブランドでの展開にこだわりがなく、条件の面での不利益がなければ、前向きに検討することをおすすめします。ただし契約書の内容には十分な精査が必要です。契約期間中もしくは終了後に関わらず、販売者が製品仕入れ価格の安い工場へ委託生産契約を変更してしまうと、貴社自らが中国市場に競合ブランドを生み出す手助けをしたのと同じことになってしまいます。
こうしたリスクを十分に考慮の上で契約を進めてください。
貴社の製品を扱う販売者が多数存在した場合、各方が販売数を増やすために安売り合戦を始める可能性があります。そうした競争を避けるためという理由で、貴社への独占販売代理契約の締結を要求する販売者も少なくないでしょう。
理屈としては正論ですが、広大な中国市場において1社のみで全国への流通を実現させるのは至難の業です。本格的に全国展開を目指すのであれば、独占販売と言いながら多くの問屋への卸販売が必要となります。その時点で問屋同士の安売り合戦は始まる可能性があり、独占販売代理権を付与するメリットが不明瞭になってきます。
総代理を設定することで管理上の手間が削減できるというメリットもありますが、この契約をする場合にはリスクヘッジとして
のが望ましいでしょう。
ビジネス以外の面でも、中国人と日本人では性格や文化においてさまざまな違いがありますし、個人によっては程度にも差があります。さらに言えば、同じ中国人でも年代や出身地により考え方や習慣は大きく異なります。
中国への食品輸出販売を成功させるために必要なのは、そうした背景が存在することに対し興味や好奇心を持つこと(INPUT)、同時にあなた自身が柔軟な考えと発想で彼らの主張や要求に対し解答することです(OUTPUT)。この繰り返しが貴社の中国への食品輸出を成功へと導いてくれることでしょう。
この記事を書いた人
本炭 康典上海で自社ブランドの納豆を200店舗以上へ卸販売した経験を活かし、日本製の食品を中国へ輸出および消費者市場に向けた販路拡大のサポートをしています。