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中小企業が新しい事業を始める際にぜひ活用したほうが良いのが「補助金」や「助成金」。獲得するにあたって、それぞれの特徴を把握した上で戦略的に申請するほうが圧倒的に獲得がしやすくなります。
そこで本記事では、まず両者の違いや明確な定義、それぞれの特徴・取得難易度・申請時の注意点について解説します。
まず、補助金や助成金のそれぞれの定義について簡単にお伝えします。
どちらも国・政府から資金的な支援のため支給されるお金です。
実は補助金と助成金の違いについて明確な定義の設定はございませんが、
主に支給する省庁によって呼び名が変えられています。
その中でも、「補助金」は経済産業省や農林水産省などの省庁が管轄するもので、
「助成金」は厚生労働省や地方自治体が管轄している支給金のことを指すことが多いです。
助成金は厚生労働省が出すこともあり、雇用や労働に関するものが多く存在しています。
一方で補助金は、事業に関して支給されるお金になりますので
例えば、食品メーカーが新規事業を行う際に申請するのは「補助金」となります。
「助成金」は、基本的に要件を満たしていれば受給することができます。
例えば、キャリアアップ助成金の「正社員コース」は、契約社員が正社員に変わった時に、50万円〜70万円の助成金を受け取ることができる助成金ですが、この条件を満たしさえすれば予算が残っている間は誰でも受給することができます。
金額は数10万円〜100万、200万のものが多く、先払いでお金が支給されます。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou\_roudou/part\_haken/jigyounushi/career.html
一方で「補助金」に関しては、その逆です。
補助金には審査があり、後払いになります。その代わり金額は高額で数千万のものから、1億円を超える補助金もあります。
例えば、経済産業省が出している事業再構築補助金に関しては支給対象が全ての職種です。
応募する枠によっても金額はことなりますが、一般的な企業では最大で7,000万円まで受け取ることができます。
https://www.meti.go.jp/covid-19/jigyo_saikoutiku/pdf/jigyo_saikoutiku.pdf
また、農林水産省が出している食品メーカーに特化した補助金もあり、
工場建設に使えるHACCPハード事業補助金は最大5億円まで受け取ることができる補助金もあります。
業界特化の農林水産省補助金の方が経済産業省が出す補助金よりも高額な補助金が用意されています。
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/gfp/haccp.html
助成金 | 補助金 | |
支給元 | 厚生労働省・地方自治体 など | 経済産業省・農林水産省 など |
用途 | 就職・労働に関するものが多い | 事業投資の目的が多い |
審査の有無 | 無し (要件を満たせば受給) | 有り(要件を満たしても審査要) |
金額帯 | 数10万円~200万円 | 数百万〜数億円規模 |
支払い時期 | 先払い | 後払い |
補助金の取得を考えたら、まずは補助金の申請作業を行う必要があります。
この申請作業では、申請者がこれからどんな事業に補助金を使う予定なのか、
政府が支給を想定している事業に当てはまっているのか?についての審査があります。
申請すれば必ず支給される助成金と比べて、補助金は100%受け取れるわけではありません。
例えば、「小規模事業者持続化補助金」は、公募要項に以下の記載があります。
「本補助金事業は、持続的な経営に向けた経営計画に基づく、販路開拓等の取組や、その取組と併せて行う業務効率化(生産性向上)の取組を支援するため、それに要する経費の一部を補助するものです。」
https://r3.jizokukahojokin.info/doc/r3i_koubo_ver9.pdf
過去私が担当した事例にてお店に「てすり」を取り付け、顧客の利便化を図る計画を申請したことがありましたが、残念ながら採択されることはありませんでした。
「手すり」の設置は、業務効率化の意味を含んでいたかもしれませんが、販路開拓の取り組みとはみなされなかったためです。
最終的に要件に不適格とみなされました。
このように不適格となれば手間をかけて準備をしても落とされてしまうこともあります。
さらに要件が満たされていても、政府がOKを出さない限り取得できないため、
100%受給できるわけではない点だけ注意が必要です。
また助成金は窓口が親切で自分が要件に当てはまるかを親切に教えてくれたりします。
しかしながら補助金は事務局へ問い合わせると「公募要項を読んでください」で終わってしまいます。
補助金の申請は「公募要項」だけでなく、その裏にある政府の意図や狙いを深読みする力が必要になるでしょう。
2つ目の注意点が、お金が入る時期です。
助成金は申請が受理されると数ヶ月でお金が支給されますが、補助金は後払いとなります。
補助金には事業期間が設けられており、その間に申請した目的を達成するための事業を行います。事業期間にも限りがあり、およそ8ヶ月〜14ヶ月ほどです。
この期間が終わるまで支給申請ができないため一時的にお金の”建て替え”が発生します。
例えば、1000万円の事業費用に対して500万円の補助金が出されたとしたら、まずは1000万円を負担し後から500万円が戻ってくるイメージです。
補助金の申請・採択・補助金交付までの大まかな流れは以下の通りです。
補助金が支給されるまでの大まかな流れ
申請→採択→交付申請→事業開始→実績報告→請求書の提出→補助金の振込
(参考:https://cregio.jp/column/hojokinflow/)
補助金の採択は全体のほんの一部分にしか過ぎず、言うならば「予約」のようなイメージです。
実は最初の申請時には詳細な費用まで計算せず、大雑把な費用算定までしか行いません。
例えば、工事費用は大体600万円くらい。機械で400万円くらい。といった具合です。
次の交付申請で正式な見積書とともに、より詳細な費用の項目と想定費用を提出します。
この手続きで詳細な費用項目が初めて審査されるため
このタイミングで認められない費用がでてくることもあります。
その後、事業を開始して、実績報告にて領収書とともに実際に使った費用を報告します。
もちろん交付申請時の申請内容と同じでないといけませんし、交付申請で承認されていない費用は実績報告しても認められません。
このように、補助金をもらえるまでに採択→交付申請→実績報告の手順が発生しますが、
書類が非常に多く、事務局のチェックも細かいものでかなりの作業が発生します。
助成金は受給要件を満たせば、誰でも手にできる分、金額は少ないものとなります。
一方で補助金は事業への活用を意図したもののため、額は大きいものの、
申請手続きの煩雑さがデメリットとして挙げられます。
また、補助金を獲得するためには公募要項の中身や「なぜこの補助金を政府が用意しているのか?」「どんな事業者に浸かってもらうことを想定しているのか?」についてしっかり深読みをした上で、事業計画を作らないといけません。
さらに労力をかけて採択を獲得した先にも、煩雑な交付のための申請手続きが待っていますので、もし補助金の獲得を目指しているなら、プロに相談することをオススメいたします。
この記事を書いた人
北條 竜太郎慶応義塾大学法学部卒、京都大学大学院修士課程修了
外資系経営コンサルティング会社の朝日アーサー・アンダーセン(現PwCアドバイザリー)、
オリックス㈱の事業投資部門を経て2006年秋より現職。
家業である大阪の中堅食品メーカー「茜丸」の借金22億円を完済し、再建した経験から
現在は食品業界専門のコンサルタント活動を営む。