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売るのが難しい業務用食品の売上をアップする方法についてご紹介します。
卸を介さずに粗利を最大化させつつ、売上アップが期待できる販売チャネルについてお伝えします。業務用食品を扱っており、卸を介した流通に限界を感じている会社はぜひご覧ください。
卸を介した販売に依存してしまい、売上のコントロールが難しいのが業務用食品。
必死にルート営業を繰り返しても、なかなか売上が上がらない。
そんなことでお悩みではないでしょうか。
本記事では、筆者が代表を務めていた大阪の食品メーカーの事例をもとに、直販を活用することで業務用食品の売上を最大化した方法をご紹介します。
食品メーカーを専門的に扱うコンサルティング会社として、利益改善、原価高騰対策、工場建設、海外輸出、エネルギーコスト削減など、クライアントの要望に沿った事業改善戦略を立案し、補助金活用によってコストダウンをしながら、ゴールまでの最適な道筋を提案する。
2007年に家業である大阪の中堅食品メーカー「茜丸」が倒産。
負債22億円を抱え、民事再生の申請を経験する。
負債を抱えた上に既存の取引先から契約を打ち切られ、
卸を介した販売チャネルの売上が低迷。
路頭に迷っていた時に「業務用あんこ」の直販化に成功し、
2019年に負債22億円を完済。
現在も業務用通販の直販チャネルは好調を続けている。
業務用食品は、現代においても「卸を介した流通」が基本的な販路となっています。
食品業界では何十年にもわたって、メーカー→卸→各店舗の流通経路ができており、 卸を介さない方法を始めた事例はかなり少ないですよね。
でも卸に依存していれば粗利益も低くなるし、「人的営業によって、卸の担当者に気に入られる」といった再現性のない方法に依存するしかない状態です。
現場の努力でしか売上アップができないようであれば、売上を安定して伸ばしていくことはできません。
筆者の家業である大阪の中堅和菓子メーカー「茜丸」は、2007年に負債22億円を抱えて倒産を経験しています。
「茜丸」においても業務用のあんこを卸を介して販売していました。
しかしながら信用が0になったことで、大手メーカーや卸との契約が続々と減っていきました。もちろん新規開拓も難しい状況に。
そこで紆余曲折しながら、業務用食品を直接販売する新たな販売経路を自らの手で見つけることに成功しています。
まずは弊社のストーリーを交えながら、「売りにくい業務用食品」をどうやって売っていくべきか?この問題について解決策をご紹介していきます。
業務用食品の販売ノウハウは世の中に落ちていない
茜丸の倒産後、事業を上向きに変えるために「業務用食品」の売上を上げる方法について調査を始めました。
でも、いきなりつまづくことになります。
ノウハウがどこにも存在しないのです。
ネットにも本にも情報は無い、社内で確認しても
「卸の担当者にいかに気に入ってもらえるか?が大事」
そんな答えしか出てきません。
そのため、試行錯誤して正解を探していくしかありませんでした。
私がとある卸の会社を訪問した時のこと。
商品サンプルを提示した時、卸の担当者の方から
「茜丸さんの商品って、こんなにたくさんあったんですね」と言われました。
それも無理はありません。
卸は4万アイテムほどを扱っている上に、その中の40アイテムがうちの商品でした。
わずか0.1%です。
ここで私は「卸に依存する限り、業務用食品の売上を拡大する道はない」と実感しました。
卸にどれだけ働きかけたとしても、よっぽど目立つ商品でない限り、担当者の人も覚えようがないのです。
卸への営業にどれだけ力を入れても事業を持ち直すのは不可能だと悟りました。
そこで考えたのが、「ネット通販」です。
なんとか直販という形で、エンドユーザーに対して直接販売ができないか。
検討を進めることになりました。
卸を介さないで直接、業務用食品を販売していく戦略です。
あんこを必要としている会社の中で、ある程度規模が大きい会社には卸が入っています。
そこで卸が入らないような小さな個人経営のベーカリーなどをターゲットとすることに。
ホームページを作成しネット通販で販売を開始しました。
当時は楽天市場も栄えていましたが、すでに豊富なレビューを持つ競合が参入していました。
しかしながら、その会社は自社サイトで集客を行なっていなかったので、
茜丸では自社サイトでの通販を始めることを決めます。
おそらく日本で初めて「あんこのネットショップ」を開設しました。
しかしながらこの戦略は不発に終わります。
初月の売上はたったの8.5万円。
そのような状態が半年近く続きました。
なぜ、ネット戦略は失敗に終わったのか?
その理由は、ターゲットとなる個人経営のベーカリーを訪問した時に明らかになります。
彼らがどのような方法で「あんこ」をオーダーするのかを確認したところ、
FAXや電話がメインで、ネットを一切使っていなかったのです。
今となっては事業所にパソコンがあるケースもありますし、
スマートフォンも普及しており、事業所からネットにアクセスできる環境があります。
しかし当時は2007年。
家にPCを持っていても、事業所には電話しかないケースがほとんどです。
つまり、ネットからオーダーしようと思ったら一度家に帰らないといけない。
そんなベーカリーがほとんどでした。
当時はネット直販はうまくいかないと結論付けて、次の戦略を検討しました。
そこで思いついたのが「カタログ通販」です。
モノタロウ (工事用品・文具などを幅広く扱う業務用通販会社)やタスカル (外食産業へ食品を販売する業務用通販会社) も当時はカタログを採用していました。
参考:タスカルネットショップ
そこで茜丸でも商品ラインナップがすぐに確認でき、すぐに電話やFAXで注文ができるカタログ通販を導入したところ、
これが正解でした。
事業が軌道に乗り始めました。
特に卸の手が届かないような地方のお店や、小規模な店舗に対してはかなり高い効果を発揮し、ルート営業のコストを削減しながら
大きく売上や利益を増やしていくことが可能に。
10年近くかかりましたが、この成功により22億円だった負債は、2019年に完済することができています。
適切なターゲット調査に基づいた、正しい戦略を立てること
大事なことは、しっかりターゲットの調査を行うことです。
現地に足を運んで、調査をする必要があります。
今ではネットが主流になってきて、「ネットでどうやって売るか」に固執してしまうケースも多いです。
でもネットをやれば正解というわけでもないです。
むしろネットの外の世界の方が広く、チャンスも大きいと感じています。
食品業界は、あらゆる業界の中でもEC化率が低い業界です。
2022年の調査ですと、わずか4.16%。
コロナ禍が始まって2年経ってもたったの4%です。
食品業界においては特に「ネット」に固執することなく「ネットの外」の戦略も視野に入れた上で、
あなたの会社の商品が最も手に取ってもらいやすい売り方を検討することが大事ではないでしょうか。
複数の戦略の組み合わせで、最大の成果を出せることももちろんターゲット調査を行なった結果によりますが、
紙・ネットなど、媒体の選択は1つに絞らなければならないわけでもありません。
例えば、ネット通販とカタログ通販をあわせて行うなど、複数のモデルを用意することで、売上を最大化することもできます。
どちらかにこだわる必要もないので、広い視点を持ったリサーチが重要です。
卸への依存から脱却して、高い粗利で商品を売っていく。是非ともこの戦略を視野に入れてみてください。
業務用食品は、現代においてもほとんどの会社が卸に依存している状況です。
多くの会社が卸に依存しているということは、まだ未開拓な店舗がいくらでも存在しているということ。
つまり今でも成功する可能性は高く、とてもチャンスがある戦略の1つです。
実際「茜丸」はカタログ通販が起爆剤となり、ネット通販の方も整備を進めた結果、ネットもカタログもどちらも軌道に乗せることに成功しています。
まずは御社のターゲットの特性をよく調査し、御社オリジナルの戦略を検討してみてください。
この記事を書いた人
北條 竜太郎慶応義塾大学法学部卒、京都大学大学院修士課程修了
外資系経営コンサルティング会社の朝日アーサー・アンダーセン(現PwCアドバイザリー)、
オリックス㈱の事業投資部門を経て2006年秋より現職。
家業である大阪の中堅食品メーカー「茜丸」の借金22億円を完済し、再建した経験から
現在は食品業界専門のコンサルタント活動を営む。