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食品の海外進出において、気を付けるべき点は多くあります。事前に法規制や必要な手続き、更には現地の商習慣を理解せずに進出計画を立ててしまうと、せっかく広告宣伝に取り組んだにも関わらず、肝心の製品が流通しないということになりかねません。
この記事では貴社の製品を中国市場へスムーズに流通できるよう、取り組みの早い段階で留意しておくべき重要なポイントについてお話します。
放射能性物質に関する規制
福島第一原発事故およびALPS 処理水の海洋放出に伴い、日本で製造・生産された食品の中国への輸出については、2023年8月24日の時点でつぎの通り規制があります。
9都県(福島,宮城,茨城,栃木,群馬,埼玉,千葉,東京, 長野):すべての食品が輸入停止:
新潟県:米を除くすべての食品が輸入停止(米は上記9都県以外で生産されたことの産地証明書が必要)
上記以外の都道府県
詳しくは農林水産省のホームページに記載されています。
自社で製造した食品の中国へ輸出可能かどうかは、同ホームページ内に判別フローチャートもありますので、参考にしてください。
なお、新潟県を含む10都県で製造している食品メーカーでも、自社の商品が十分に中国市場で通用すると判断をし、10都県以外で提携先を見つけ生産委託をおこなう、もしくは新規で工場を立ち上げる場合もあります。規制対象エリアだからと中国市場を完全に放棄するのではなく、進出のチャンスがあれば柔軟な発想で検討することを心がけましょう。
自社の食品に香料や着色料などの添加物を使用している場合は、あらかじめ中国で使用が許可されているか、使用している量が許容範囲内かを調べる必要があります。
中国には食品添加物使用標準(GB2760-2014)という国家標準が定められており、使用が認められる添加剤ごとに使用範囲および最大使用量が定められています。いわゆるポジティブリストになりますので、ここに定められていない添加剤を使用している食品は輸入許可が下りないということになります。ジェトロのホームページで和訳版PDF、農林水産省のホームページでは中国食品添加物検索データベースがダウンロード可能ですので、参考にしてください。
リストの照合ですべてを判断するのは難しい面もありますので、輸出を検討している食品については、提携を予定している日本の国際物流会社や中国現地通関会社へ依頼し、現地税関の意見を確認することで正確性が高まります。
なお、通常は初回の輸入通関時に税関において成分検査が実施されますので、くれぐれも提出した原材料の内容に記載漏れや記載ミスがないよう注意してください。
中国には「輸出国政府推薦が必要」とされている特定の食品があり、この品目に該当する場合、日本政府による中国政府への企業登録が必要となります。管轄は農林水産省です。
この日本政府による中国政府への推薦が必要とされている品目を「7条品目」といい、具体的には次の品目となります。
・肉及び製品 ・ケーシング( 肠衣) ・水産物 ・乳 製品 ・ツバメの巣及びツバメの巣製品・ミツバチ製品 ・卵及び製品 ・食用油脂及び搾油原料 ・餡入り小麦粉製品 ・食用穀類・穀類製粉工業品及び麦芽 ・生鮮及び乾燥野菜並びに乾燥豆類 ・調味料・堅果及び種子類 ・ドライフルーツ ・未焙煎の珈琲豆及びカカオ豆 ・特別用途食品・保健食品
中国政府は登録を求める品目のリストを随時更新していますので、最新の情報については都度確認が必要です。
具体的な登録の方法については、農林水産省のホームページに記載がありますので参考にしてください。
中国では「輸出入食品安全管理弁法」が定められており、中国へ食品を輸出する際には管轄の税関へ事前に届出をおこなう必要があります。上述の日本政府による推薦が必要な7条品目以外のすべての食品(9条品目)については、企業自ら登録が必要です。
初回の輸出実施までに、製造者登録、輸出者登録をおこないます。製造者が直接輸出をする場合でも、それぞれに登録が必要となりますので注意してください。
オンラインシステムからの登録が可能で、それほど難易度は高くはないのですが、初めてアカウントを作成する際には何を入力したらよいかわからない、PC環境により表示が文字化けする場合があるなど、手が止まってしまいがちなポイントもあります。
具体的な登録の方法は別の記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
中国は海上輸送に必要な日数も短く、港によっては船の便数も多いため、輸出先ターゲットとして非常に良い条件が揃っています。しかしながら、消費期限の長くない食品は中国の販売者から見るとリスクが高く、取扱いに二の足を踏まれる傾向にあります。
消費者をターゲットとして販売する日配以外の食品については、消費期限まで3カ月を切る在庫を返品返金対象とする小売店や販売者も少なくありません。そのため消費期限の短い食品については、飲食店向けに仕様を変更する、冷凍技術で消費期限を延ばすなど、中国市場に合わせてカスタマイズしていくことも必要です。
一般的な目安として、1年以上の消費期限を求められるケースがほとんどでしょう。1年を下回る場合は、1回の輸出量を適正在庫となるよう調整し、輸送効率が下がる分のコストを上乗せした上で見積価格を設定してください。
また、取引基本契約書や売買契約書に、返品についての取り決めは明確に記載します。中国人には「先のことをあれこれ考えてもしょうがない、まずは進めていきましょう!」と笑顔で握手をしてくる方も多いですが、これは必ずしも「問題が起きたら協力的に解決しましょう!」と同義ではありません。消費期限が近付いた在庫は日本のメーカーが新しいものと無償で交換することを普通に要求されることもあります。悪意があってのことではなく、相手方の商習慣が長きに渡りそうであったに過ぎません。
食品の海外進出全般に共通することですが、自社のブランドが中国において他者の商標権を侵害する可能性があるか否かは、進出への取り組みを検討する段階であらかじめ調べておくべき事項です。
まずは市場の感触を探るという目的で、今後の参考程度に中国の展示会へ出展する日本企業は少なくありません。ところが展示会にはバイヤーばかりが来場するわけではなく、中国への進出に取り組む海外企業の商標を先に中国で登録することを目的とした、商標ビジネスに従事する輩も貴社のブースへ立ち寄る場合があります。実際に自社の商標を他者に登録されてしまった例はいくつもあります。先に商標を登録されてしまうと、
といったやり切れない事態に陥りかねません。
希望する商標が中国で登録可能か、他者の商標を侵害していないかを自身で正確に調べるのは簡単ではありません。ここは費用を惜しまず、専門家へ依頼することをおすすめします。
これはうれしい悲鳴にも聞こえますが、中国という巨大な市場への進出に成功すると、今度は生産能力を超える注文を受けるようになり、供給が追い付かなくなります。
中国の販売パートナーとしては機会ロスを生じさせるわけにはいきませんので、急ぎ供給不足を解消すべく別の仕入れ先を探すようになります。その結果、新しい仕入れ先へ全面的に注文を移行し、最終的に貴社への注文がなくなるという状況は十分に考えられます。
とは言え生産量を増やすための投資には費用も時間もかかります。他の工場へ注文を奪われる、大量の販売に成功したものの一時的なブームで終わってしまうなど、ラインの増設が完了した頃に注文量が目減りしているようでは何のための投資かわかりません。中国市場のためだけに設備投資をするという判断には大変な難しさがあります。
自社の生産能力とバランスの取れた方法とスピードで中国市場を開拓する。こうしてリスクを回避していく以外はなさそうです。
中国への食品輸出において気を付けるべき点は他にも多くありますが、実際に輸出に取り組んだことのない企業が、単独で法規制や市場リスクをすべて事前に把握することは不可能に近いです。
JETROや民間の支援企業と連携し正確な情報を収集した上で、貴社の現状に最適な方法を模索しながら、ぜひ中国への輸出販売を成功させてください。
【文中リンク】
添加物についても厳しい使用基準がある
農林水産省のホームページ(https://www.maff.go.jp/j/export/e_shoumei/china_shoumei.html)
ジェトロのホームページで和訳版PDF
( https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/foods/pdf/ch_foodadditives.pdf)
中国食品添加物検索データベース(https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.maff.go.jp%2Fj%2Fshokusan%2Fexport%2Fattach%2Fxls%2Fchina_add_data-2.xlsx&wdOrigin=BROWSELINK )
特定品目は日本政府による登録が必要
農林水産省のホームぺージ(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/kigyoutouroku2.html)
この記事を書いた人
本炭 康典上海で自社ブランドの納豆を200店舗以上へ卸販売した経験を活かし、日本製の食品を中国へ輸出および消費者市場に向けた販路拡大のサポートをしています。