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HACCPは、適切な食品衛生管理を実現するための重要な考え方です。2021年6月に制度化されたものの、2023年現在、この理念を十分に取り入れていない企業が日本には依然として多く存在します。その一因として挙げられるのが、日本においてさまざまなHACCP認証が存在し、どの認証に対応すれば良いか分からないという問題です。本記事では、日本のさまざまなHACCP認証について解説し、みなさまがHACCPに取り組む上での第一歩を踏み出す手助けとなる情報を提供します。
HACCPは2021年6月より制度化されましたが、現実にはまだまだHACCPの考え方からは程遠い運用が行われており、食品製造企業の中には理解が追いついていないところも見受けられます。先日、百貨店と取引のある老舗企業を訪問した際、HACCPに基づく食品危害の未然管理の概念がまったく理解されていないケースがありました。
経験上、自社でHACCPの考え方を導入できていない理由として以下の点が考えられます
対応が必要であるにも関わらず、罰則が存在しないことや何から手をつければいいかが不明瞭であることから、問題が発生していないことに安心感を覚え、後回しにされるケースが少なくありません。
しかしながら、この制度の本来の趣旨は、HACCPの考え方を取り入れるだけでなく、安全な食品を消費者に提供するために企業に食品安全の運用仕組みを根付かせることにあります。先述の例では問題が発生していないかもしれませんが、問題が発生すれば大きな経営危機に直面する可能性があります。
今、HACCPに取り組まない理由はもはや存在しません。
インターネットで「HACCP」と検索すると、さまざまな組織や情報が表示されます。厚生労働省、公益社団法人、ソフトウェア会社、コンサルティング会社など、さまざまな関連情報が混在しています。HACCP認証を行う団体や、HACCP導入に必要なサービスを提供する企業が数多く存在し、そのため情報が溢れている状態です。この情報の多さは、何から手をつけていいか分からなくなる原因となっています。
さらに、HACCP認証を行っている団体も複数あり、どの団体でHACCPに取り組むべきか迷ってしまうことがあります。実は、企業が進む方向性によって、お勧めするHACCP認証団体が異なります。HACCP認証を行っている団体は大まかに3つに分かれます。
それぞれに特徴があり、以下で詳しく解説していきます。
自治体HACCP認証は、地方自治体が食品安全管理のために採用している仕組みです。具体的な例として、北海道HACCP自主衛生管理認証制度、仙台市食品衛生自主管理評価制度、東京都食品衛生自主管理認証制度などが挙げられます。皆さんも飲食店などで独自のHACCPマークを見かけたことがあるかもしれません。地方自治体の認証を受けることで、自治体のサポートを受けたり、地域の取引先やお客様に食の安全をアピールすることができます。
なぜ地域ごとに認証制度が異なるのかという理由は、例えば、食品製造に使用される井戸水が地域ごとに性質が異なることが挙げられます。砂が多く含まれたり、硬度やpHが異なるため、食品製造に適した水とするには、その地域の特性に合わせた管理が必要です。このように、地域に合わせた衛生管理の考え方は重要であり、地方自治体がその管理を担っていると言えます。
自治体認証HACCPは、その自治体や土地のルールや考え方に基づいた運用となります。そのため、地域に密着して事業を展開したい企業にとっては十分な認証となります。一方で、全国展開や国際販売を志向する企業にとっては、自治体HACCPだけでは不足する要素があります。
業界団体によるHACCP認定は、各業界・業種の特徴に合わせた認定が行われます。
例えば、以下のような団体が存在します。
炊飯製品:公益社団法人日本炊飯協会
水産食品加工施設:一般社団法人日本食品認定機構
卵製品:日本卵業協会
食品の種類によって管理のポイントが異なるため、例えばパン製造では卵の使用有無でアレルギーの危険性が変わり、アレルギー材料の厳重な管理が求められます。また、牛乳などの日持ちの悪い食品では、温度による殺菌や設備の微生物管理が重要です。
業界団体によるHACCP認証は、業界・業種独自の衛生慣行や食の安全管理に関するノウハウが蓄積されているため、製品が該当する場合は必須と言えます。業界団体の認証は信頼性が高く、全国での販売展開が可能となります。
ただし、これだけでは国際販売には十分でない場合があります。
先に紹介した自治体HACCPや業界団体HACCPは、国際販売を目指す際にはあまり有用ではありません。現在、食品安全の認証として国際的に認められているものには、以下のようなものがあります。
FSSC22000
食品安全マネジメントシステムに関する国際規格である ISO 22000 を基礎に、具体的な衛生管理の手法が追加された認証
JFS-C
日本発の新しい食品安全マネジメント規格。日本国内の食品関連サイトだけでなく、対日輸出に関わる日本国外の製造拠点等での普及が期待されている
上記は、GFSI(Global Food Safety Initiative)によって認められた認証(ベンチマーク認証)です。GFSIとは、Walmart、McDonald’s、AEON(イオン)など大手の小売り、製造、流通業で結成された団体です。これらはGFSIベンチマーク認証として知られ、国際的に認められた基準であり、海外販売の前提条件となっている場合があります。
これら国際的に認められた基準を審査する機関は、ISOなどの審査を行っている民間審査機関です。審査機関は、国内に本社を置く国内系と、海外に本社を置く外資系審査機関に大別されます。
将来的にはFSSCなどの国際規格にステップアップして国際販売を行いたいと志向する企業には、まずISO 22000の認証取得を目指していただく事をおススメしています。
ISO22000とは、組織を管理する仕組み(マネジメントシステム)の基準とHACCPの手法が含まれた国際基準です。ISO 22000認証取得をおススメする理由や、費用、取得の段階については、別途記事で解説をさせていただきます。
HACCP認証は企業にとって欠かせない取り組みであり、その選択肢は多岐にわたります。ただし、企業の性格や展望に応じて最適な認証を選ぶことが成功の鍵となります。国内展開に留まらず、将来の国際販売を視野に入れる企業には、国際的に認められた基準を採用した認証取得が不可欠です。 HACCPの考え方と認証制度にしっかりと取り組むことで、企業は食品安全と品質の確保を図り、競争力の向上に繋げることができます。
この記事を書いた人
赤谷 淳一◆製パンメーカー:品質管理部門に従事しHACCPを導入
◆インターネット小売り:新規倉庫の立上げ、生産性改善業務をリード
◆ISO認証機関:審査、研修講師を担当
◆独立し、HACCP導入・コンサルティングを提供
食品製造、飼料、食品保管倉庫・配送、食品容器包装等、幅広い食品関連企業に対するコンサルティング経験・実績が強みです。