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国内市場の衰退により海外進出を志す食品メーカーが急増しています。しかしながら、これまで海外へ挑戦してこなかった企業からすれば、まず始めに、何から始めれば良いのかわからないケースがほとんどです。
本記事では、海外進出のファーストステップで何をすべきなのか?についてお伝えしていきます。
海外への進出を考えたらまずなんとかしないといけないと思うのが「外国語への対応」ではないでしょうか。でも実際は食品メーカーの社長さんで外国語を話すことができる人はほとんどいません。実際、弊社でも中国と取引をしている企業を支援していますが、英語を流暢に話せる社長はほぼいません。
実は外国語を話せなくても、海外進出はできてしまいます。
なぜなら、食品メーカーの扱う商品には「形」があり、「味」は食べればわかるからです。 形のない商品を売ったり契約を取り付けたりするとなると、やはり会話力やプレゼン力が必要になり、必然的に外国語を扱える必要があります。 しかし、食品の場合は、味がしっかりしていて、値段が妥当で、納期がしっかりと守れる会社であれば、基本的に文句を言われることはありません。
日本だと、どれだけ商品が良くても、営業担当に話が通じなければ契約が取れなかったりしますが、海外ではそのようなことはなく、実質的な商品価値がバイヤーに気に入られれば、コミュニケーションは大きな問題にはなりません。
さらにこちら側の商品に魅力がありバイヤー側でぜひ買いたいと思ったら、向こうが通訳を用意してきます。ですので食品業界においては、英語力がなくても海外進出が可能です。
では、海外進出を考えた時、まず何から行うべきなのでしょうか。貿易を始める前に行っておいたほうが良いことをまずはご紹介します。
当たり前のことではありますが、日本で売れている商品が海外でも売れるとは限りません。逆に日本で売れていない商品が海外で売れないとは限りません。
食品に関して言えば、味に対する嗜好・好みがあります。
さらに、それが良かったとしても、現地における食品の価値も単価や交渉金額に影響します。
つまり、まずは御社の商品が海外にとってウケが良いものなのか。さらには最も売れる地域はどこなのか。についてリサーチをする必要があります。
例えば、個人的な所感ですが、東南アジアでは「酸味」が強いものは売れにくい印象があります。ヨーロッパでは全然受け入れられますが、東南アジアではウケが悪いです。
一番効果がわかるのは、展示会に出展してみることです。
ですが、これでは最初からお金がかかって仕方ありません。
私も昔は、何も考えずにマレーシア市場に飛び込んだことがありましたが結局何も得られずに終わりました。 まずは需要を調べるところから始めてください。
需要の調査の最も効率が良い方法は、JETROが主催している商談会です。
https://www.jetro.go.jp/events/tradefair.html
この商談会では、参加無料でオンライン開催もおこなっています。
この商談会を利用すれば1回でかかるコストが低いので、いろんな国のバイヤーと気軽に商談を行うことができ自社商品が光り輝く市場を見つけることができます。
日本の会社は、中国、台湾、アメリカへ行きたい会社が多いのですが、いずれもファーストステップとしてはハードルが高い国です。
中国とアメリカは市場規模は大きいですが、食品の輸入基準がとても厳しく、事務処理もかなりややこしい国です。
日本で売っている商品をそのまま海外にもっていくのは基本的に不可能ですので、新たな商品開発が必要になるケースがほとんどです。
また、中国は汚染水の流出により現在日本水産品の輸出が制限されています。
水産以外にも日本製の評判が悪く、新規の商品が開発されていない状況になりました。
国の規模が大きいことで、上から目線のスタンスの会社が大きく、貿易経験の浅い小さな国の商品にできる国ではありません。
台湾は、日本の経営者にとって人気な国です。
親日の国であり、日本に対して尊敬の気持ちを持っている人も多いです。
ただ、台湾は物価が非常に安いのが問題です。
近年、台湾でも物価は上がってきてはいますが、未だに日本の4割〜5割くらいの物価です。
そのため日本の商品を台湾に持っていくと「高い」と言われることが多いです。
親日の人が多い分、交渉の最初は良い調子で進みますが、見積もりの段階になると途端に反応が悪くなるケースが多くあります。
海外進出で成果が出やすい国として挙げられる国は、香港・シンガポール・タイの3つです。
日本の食品マーケットとしては今でも2位で、規模が大きい国が香港です。
香港の良いところとしてはまず物価が高いことです。
シンガポールに続き、アジアで物価が高い国で、利益も大きく取ることができます。
また香港は新日国としても有名です。
国土が小さく娯楽があまりないことから、頻繁に日本に旅行へ来ている人も多く日本食への親しみも大きい。
とてもチャンスな国です。
そして一番のメリットは、食品の輸入条件がゆるいことです。
中国やアメリカについては輸入条件が厳しい旨をお伝えしましたが、香港は条件がゆるいため、日本の食品をそのまま入れることができます。
シンガポールは物価が高くこちらも有望な国ですが、香港よりも市場が小さいため香港の方がオススメです。
タイについては物価が低いですが、富裕層が多いためマーケットサイズを考えると、やはり香港に軍配が上がります。
シンガポールと遜色はないが、タイは輸入通関に時間がかかるデメリットもあります。
まずは香港やシンガポール向けのJETROの国内展示会があれば、積極的に参加するのがオススメです。
国内の展示会はJETROだけではなく、商工会議所が行っているケースもあります。
国内開催の商談会はもちろん100%日本語で、外国の会社が来ても日本語が話せる人を絶対連れてくる傾向にあります。
もしそういった人がいない場合でも、JETROの通訳がいることがほとんどなので、国内商談会に関しては100%日本語です。
そのため、積極的に参加してみるといろんな気付きが得られるはずです。
商談会にて、自社商品との相性を確かめる時にチェックすべきポイントは、「特注対応」「納期」「賞味期限」「値段」「味覚」の5つのポイントです。
賞味期限については長いほうが有利ですが、近場であれば問題になることはあまりありません。
あとは「味覚」については商談会で現地の人の反応を必ず見るようにしてください。
海外に出れば、味覚が変わるので、現地の人に受けが良いかを判断する材料になります。
海外進出を志した際に、「すぐにパンフレットが必要になるか?」について質問を受けることがあります。
結論を申し上げると、パンフレットは「この国で絶対売れる」と確信するまでは作らなくても大丈夫です。
無料商談会に出てみて確信が出てくるまでは制作を進めなくても問題ありません。
特に外国語への翻訳はマイナー言語だと難しくお金もかかるので、パンフレットの準備を待つことで海外進出の行動を始めるのが遅れるようなことは無いようにしましょう。
最低限英語のパンフレットがあると良いですが、なくても商談を進めることは全然できます。
同じ理由で外国語のホームページなどもこの段階では準備不要です。
JETROの日本商談会へ出たとしても、なかなか「絶対売れる」といった自信がつかないことがほとんどではないかと思います。そのため次のステップでは「国内の展示会」に参加して、ターゲットとなる国、地域を特定しましょう。
特にオススメなのが、1年に2回開催されている「日本の食品輸出EXPO」です。
こちらは年に2回、幕張とビックサイトにて開催されるイベントです。
全世界から招待バイヤーが参加するため、まだどの地域にアプローチすべきか明確ではない企業が出展すると効果的な市場調査が可能になります。
出展料はやや高額ですが、旅費交通費が国内のため節約できることや全世界に同時にアプローチできることもメリットです。
弊社でも輸出を始めた初期段階で数回出展を行い、進出先を検討しました。
売れる確信が持てない状況で、海外の展示会へ参加するのはかなり難しいと思います。
まずは日本で開催される大規模な展示会に出展して、実際に売れそうかどうかを確かめてみてください。
セカンドステップで国内展示会をオススメするのには大きな理由があります。
まだ特定の地域で売れる確証が持てない段階で現地の展示会に行くと、もし反応が悪かった場合に大きな損失を生んでしまいます。
慎重になるためにも、まずは国内で感触を確かめる。
そして、世界中の色んな国からバイヤーがやってきますので、思いもよらぬ地域で自社商品が人気とわかることもあるのです。
まずはテストの意味合いも兼ねて、国内展示会で色んな国の人と接してみてください。
ここがしっかりできるかが、その後の命運を分けます。
展示会で話を進めると、よく「代理店はどこを通すか?」についての話題が上がります。
小さい会社の場合、大きなロットで海外輸出をすることが難しいので、
物流コストが高くなる傾向にあります。
例えば、1つのコンテナを香港に送るのに25万円くらいかかりますが、
その中に1000個の商品が入っているのと、5万個の商品が入っているのでは、
単位商品あたりの物流コストが変わります。
そのために、各国で代理店を用意することがほとんどです。
例えば、香港であれば、うちはこの代理店さんを使っています。といった形で決めておくのが良いでしょう。
ここまでのステップを踏んでいただければ、すでに特定の地域で売れる確信が得られているはずです。ターゲットを絞って、現地の海外展示会へ足を運び、一気に事業を拡大しましょう。
JETROのブースも大きく、日本の食品輸出において登竜門と言えます。
日系食品商社や日本語ができるバイヤーの来場も多く、比較的ハードルが低い展示会です。
国際的な展示会であり、香港人口が600万人なのに、50万人も来場する超巨大展示会で、
香港の中国化に伴い徐々に東南アジアからの来場が減って、中国大陸からの来場が増えています。そのため、中国市場を狙うための登竜門的な展示会として、今後性格が変わってくることが予想されます。
開催時期:毎年8月中旬 (2024年8月15日〜17日)
https://www.hktdc.com/event/foodexpopro/en
東南アジア最大の展示会。タイの展示会ではあるが、東南アジア全域からの来場が期待されるためタイだけでなく、東南アジア市場を狙うための登竜門的な展示会。
タイそのものの市場開拓については、ISO22000やFSSC22000の規格が必要ともいわれるが、あくまでもケースバイケースです。
開催時期:2024年5月28日〜6月1日
以下のFHMと隔年で実施され、シンガポールで開催されます。
商圏が近いマレーシア、シンガポール、インドネシアのバイヤーが多く参加。
特にシンガポールは小規模な企業のバイヤーが多く、少量の取引希望が多いため代理店があることが前提となる。
人口が巨大なインドネシアバイヤーが非常に多いがインドネシアへの輸入通関は規制が多いためFHAで成功するための難易度は比較的高いと言えます。
また、地域的にハラル認証の必要性は高いです。
開催時期:2024年4月23日〜4月26日
上記のFHAと隔年で実施されるイベントで、こちらはマレーシア・クアラルンプールで開催される。シンガポールよりもマレーシアのほうが市場規模が大きいため、直接的なリターンはFHM>FHAである可能性が高いです。
ハラル認証の必要性は、シンガポールよりさらに高いと言えます。
開催時期:2025年9月23日〜9月26日
親日的であり商談難易度は低い。しかしながら、輸入通関時の規制が厳しいこと、関税率が比較的高いことなどから、ビジネスを進めるうえでの障害もそれなりにあるのが台湾です。
また台湾の物価が、アジア全体の中でも比較的低いことなどから、交渉の初期段階では前向きでも価格提示をしたときにトーンダウンすることが多いのが難点です。
開催時期:2024年6月26日〜6月29日
https://www.foodtaipei.com.tw/en/index.html
世界最大級の展示会。規模が大変大きく、小さなブースではあまりに目立たないことが多い。私もこれまでは見学したのみで出展経験なし、です。
開催時期:2024年10月19日〜10月23日
SIALと隔年で実施される展示会で、SIAL同様巨大な展示会。
開催時期:2025年10月4日〜10月8日
アメリカで春秋に開催。アメリカは人口増加率も高く、所得が高いため高単価な商品の販売が容易である。しかしながら、そもそもFSMA(食品安全強化法対応)などハードルが高いため、東南アジアで実績を積んだ会社でないと途中で力尽きてしまう。
開催時期:2024年1月21日〜1月23日
https://www.specialtyfood.com/shows-events/winter-fancy-food-show-24/
本記事では、0スタートの食品メーカーが海外進出していく流れをお伝えしました。
まずは無料で小さなところから始めていき、やがて自社商品が売れる国や地域を掴んでいく。そして、それが見つかったら一点集中で攻めていく。
この方法が一番確実で損失が少ない方法です。
国内展示会で良い感触を掴めてきたら、ぜひ最後にご紹介した海外展示会も視野に入れてみてください。小さなところから積み上げていけば成功へ導くことが出来ます。
この記事を書いた人
北條 竜太郎慶応義塾大学法学部卒、京都大学大学院修士課程修了
外資系経営コンサルティング会社の朝日アーサー・アンダーセン(現PwCアドバイザリー)、
オリックス㈱の事業投資部門を経て2006年秋より現職。
家業である大阪の中堅食品メーカー「茜丸」の借金22億円を完済し、再建した経験から
現在は食品業界専門のコンサルタント活動を営む。