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今回は、HACCP(ハサップ、ハシップ、ハセップ、読み方はどれでも良いです)について、お話を致します。
食品事業者に対しHACCPの導入が義務化され、その導入猶予期間も2021年6月で終了しています。
今、HACCPによる衛生管理、またはHACCPの考え方に基づいた衛生管理ができていないと、いわゆる法令違反状態になります。
HACCPへの取り組みが避けられないことであるのは、ご承知の通りです。
HACCPに取り組みたいが、躊躇されている経営者の方が多いようです。
コンサルタントをやっていて、よく「HACCP専用の設備が必要でしょ?」とか「HACCP専用の機械が必要だから、無理だよ」といった声を耳にします。
確かに必要最低限の設備投資は必要になるでしょう。
「HACCP対応冷蔵庫」などと銘打った冷蔵庫が販売されていると、ついそういった機材を購入せねば、と考えてしまう方もいらっしゃるでしょう。
長年HACCPに携わってますが、未だに「何をもってHACCP対応と謳っているのか」。
正直、筆者の私にはわかりません。
HACCPを正しく理解できていないと、こういった無駄にハイスペックな機器を購入してしまいがちで、費用が膨らんでしまい、「HACCPはお金がかかる!」と誤解してしまうのでしょう。
HACCPの導入とか構築というのは、インフラを整備することではありません。
HACCPとは、Hazard Analysis and Critical Control Point の頭文字をとったもので、危害要因分析必須管理点方式と訳されます(他の訳し方もありますが、これが正解)。
これは読者の皆様も良く聞かれるフレーズだと思いますが、これではよく分かりませんので、私はつぎのように変換してお伝えしています。
H:入ったら、A:アカンものを、C:ちゃんと、C:チェックする、P:ポイント、
H:入りそうで、A:危ないところを、C:しっかり、C:管理する、P:ポイント、
このように書くと、何となくやるべきことが見えてきます。
つまりHACCPとは、貴社製品の製造工程のなかで、「ここの工程はちゃんと見ておかないと、事故を起こすよ」という工程や、「これ、ちゃんとやっとかんと、クレームなるで」というところを、見つけ出して、そこをしっかり抑えて食品事故やクレームの発生を防止するという「考え方」なのです。
「考え方」に機械は必要ありませんが、危害要因を封じ込むためには機械が必要な場合もあります。そのちゃんとチェックする工程が、加熱調理機だったり金属探知機であったりします。
設備的に満足できなくとも、運用でクレーム原因となるような危害を回避することも可能です。
HACCPに向けて金属探知機を購入した、というお話をよく耳にします。もちろん金属探知機やX線検知器などは頼もしい安全安心材料ですが、本当に必要でしょうか?
異物をチェックするのは必ずしも金属探知機である必要はありません。
ある製粉工場を訪問したところ、最終的に0.1㎜メッシュの篩を通していました。
しかしメッシュを通す前に0.3㎜の金属片を検知する金属探知機が設置され、これを必須管理点
(CCP)に設定されていました。もしこの金属探知機がなくても、0.3㎜の金属片は次の0.1㎜メッシュでキャッチできます。
ここに金属探知機を置く意味は何でしょう。またこの金属探知機を必須管理点(CCP)に設定しているのはなぜでしょう。
製造されている製品の特性にもよりますが、前述の例のように、必ずしも最新設備は必要としない場合が、案外多いです。
HACCPを導入する場合、自社製品の製造工程をしっかり見直す必要があります。有害な微生物が生残する工程や、アレルゲンや異物が混入しやすい工程があるかと思います。
じっくり工程を観察することで不要なものが見えてきます。前述の金属探知機もそうです
が、後に殺菌工程があるにも関わらず、手前の工程で完璧な殺菌消毒を行っていた工場もありました。工程を見直すことで手順が統一されて、製品のバラツキが無くなったという事例もあります。
このように工程を見直し整備することで、不良品等ロスを減らすこともでき、ムリ、ムダ、ムラ、の3ムが解消され、コストが浮いてきた、というお話を、経営者や工場長からお聞かせて頂くことが多々あります。
HACCPを導入するにあたり、「HACCPチーム」「HACCP委員会」などを組織する必要があります。
社内でHACCPに詳しい方をリーダーに置き、チームで協力してHACCPシステムを構築するのですが、場合によってはHACCPに詳しい方が居られない工場も多いかと存じます。
HACCPチームには、社外のアドバイザー、コンサルタントを加えることが可能です。
今後この紙面等でHACCPの構築について解説させて頂く機会もあると存じますが、なかなか文章では本質的な部分は伝わりません。
コンサルタントやアドバイザーを外部から招聘し、不明点を解消しながら進めていくことをお勧め致します。
また、HACCPは設備投資ではない、と申し上げましたが、清潔な作業環境を維持するためには、やはり最低限の衛生設備は必要になってきます。
その場合でも国や自治体から、補助金や助成金が給付される場合も御座いますので、その際は弊社までお問い合わせください。
この記事を書いた人
安田 新大学で微生物学制御を学び、以後30余年、食品衛生一筋に歩んでまいりました。
コンビニの弁当工場、登録衛生検査機関、テーマパークのフードサービス部門での
品質管理・品質保証担当者として培った経験を基に活動しています。